もくじ
1.小さな町工場だからできること
2.そして野望が生まれる
3.作れども作れども完成しない日々
4.一か八かの新プロジェクト(2021年追記)
3.作れども作れども完成しない日々
「つくる」と「たべる」を一つにする。
明確な野望を打ち立てたTENTと藤田金属でしたが、その後の道のりは決して簡単なものではありませんでした。
今回は、製造までの紆余曲折をお話していきます。
藤田 TENTさんと僕とで話し合って、ざっくりと「取手が着脱できるフライパン」が作りたいとは言ってましたけど、その2週間後くらいの1発目の打ち合わせでは、すでにほぼ最終に近いスケッチをご提案いただけてましたよね
TENT青木 うわ、確かに、ビックリするくらい最終形に近いですね。でも実はそこまでに紆余曲折がありまして。
TENT治田 締め切りギリギリになってもあまりにも思いつかないから「2人でアイデア出ししよう」って、近所のカフェに行きましたもんね。
藤田 へえー!
治田 実は、難しさの1つに「金属だけで作る」という課題がありました。最初に工場見学もさせていただいていたので、藤田金属さんは金属の製造加工は得意だけど、樹脂(プラスチックなど)の成形品は不得意であることがわかっていたので。
青木 取手が着脱できるフライパンはすでに世の中に沢山あるわけですが、その多くが樹脂を使うことで、取手とフライパンとのロック機構を実現しています。
青木 今回は、金属だけでロック機構を実現するためにはどうしたら良いか?まずはここから考えました。
藤田 いっぱい出してますねえ!
治田 金属だけという制約の中だと、トングで挟む、ネジで固定するなどの方法がすぐに思いつくわけですが、今回の場合は何か違う気がするわけです。
青木 強く握っていないといけなかったり、ネジを回さなければいけないようでは毎日使う道具としてはちょっと違和感があります。スムーズに装着し、そのまま固定できる機構はないかと、うんうん悩みました。
青木 そうして悩む中で、ふと思ったんです。ハンドルの構造だけに悩むのではなく、フライパン側に何か構造をもたせたら良いんじゃないか?って。
治田 フライパンのフチの形状を工夫することで、ハンドルがシンプルにできるんじゃないか?っていうアイデアですね。
藤田 なるほど。でもまだ、だいぶ形が違いますね
青木 外側に大きな壁面をもたせて、そこにハンドルをひっかける。そうすることで、ひっかけるだけなのに安定感があるような、無理のないハンドル構造ができるのではと考えたわけです。
治田 それで、このアイデアを上から見た図を描いた時に「何かに似ているなあ」「あ、お皿に見える!」と気づいて。
青木 このときに、周囲にリムがあることで「お皿らしい佇まい」が実現できることに気づいたんです。そこでここからは、よりお皿らしく見えるように形を整えて行きました。
治田 ここまで来て、ようやく最初のスケッチの構成に近づいてきた。
藤田 僕はここで初めてスケッチと試作を見たんで、一発でこんな凄いもん出したんや!って驚いてたんですけど、へえー、なるほど。
青木 でも実は、ここからが苦難の始まりでしたね。
藤田 確かにそこからが本当に長かったですね。
青木 はい、この時点でスライド方式で装着できるというアイデアまでは、何とか至っていたわけですけど、金属のみでシンプルなスライド構造を考える。ここは本当に大変でしたね。
治田 しかもフライパンが厚手の鉄板でできているから、想像以上にものすっごい過重がかかるわけです。
青木 僕たちは「普通に、毎日使える」というのを目指しているので、値段もこなれたものにしたかった。なので、極力シンプルな加工方法を目指して、本当に様々な構造を試しました。
藤田 作ってみないとわからない部分も多くて。本当にたくさんの試作を作りました。
青木 とにかく金属の加工精度が想像以上に安定しなくて。図面や3Dプリンターモックでは成立しているのに、金属だとグラッグラだったりとか。
治田 加工の容易さも達成しつつ、加工精度のバラツキを許容するような構造をどう考えるか。
青木 たくさんのスケッチと試作を、来る日も来る日も作り続けました。そうしていよいよ実用に足る試作ができて、使ってみたところ。
藤田 ありましたね、青木さんのオムライス事件。
青木 そうそう。何週間も使い続けて問題がないことを確認して、休日に子供のためにオムライス作った時のこと。大量の具材が入ったフライパンを持ち上げ、傾けていたら、グニャリと。
治田 内部の金属が少し変形してしまったんですよね。
青木 幸いフライパンが脱落したり、怪我をすることはなかったのですが、やはり実際に使うと、荷重試験などで想定していたものとは違う、予想外の角度から大きな荷重がかかることがわかり。
藤田 そこからまた、ゼロから構造を考え直しでしたね。
青木 寝てても夢の中で構造検討してるんですよ。本当に脳がおかしな状態に陥ってました。でもそのおかげでまた、新しい構造を思いつくことができて。
藤田 ようやく構造が出来上がったと。ただこれをまた、量産のバラツキがどこまで抑えられるか、例えば、どう固定してどう溶接すれば位置がズレないかなど、何度も何度も試作検討を繰り返しました。
治田 事務所が鉄材だらけになるくらい、本当に数多くの試作でしたね。
藤田 構造が完成してからも、木の内部構造を0.5mmだけ変更したり、金属の厚みを少し厚くしたり、ネジ位置を数ミリ変更したり溶接を工夫したり。細かな調整が何ヶ月も続きました。
青木 でも見てくださいそのおかげで実現できた、このスムーズな着脱機構!
青木 やっぱりシンプルなものを作るためには、数え切れないほどの検証が必要なんですよね。僕の人生の中でも、かなり長期な検討期間でした。藤田さんはどうですか?
藤田 普段はこういう新しい構造みたいなことにはそんなにチャレンジしてなかったので、相当参りましたよ。何度も「もうダメなんちゃうか」と思いましたもん。
治田 とはいえ発売までこぎつけて、本当によかったです。
青木 ご使用いただく際には「どこに苦労したの?」と思うくらい、シンプルで違和感のないものに仕上がっていると思います。ぜひ、ここまで話して来た苦労話なんて忘れて、気軽に毎日使って欲しいです。
藤田 忘れられませんて!
治田 忘れてしまうくらい長く、このフライパンを使っていきましょう。
青木 確かに。
藤田 鉄フライパンは使えば使うほど使いやすくなる、一生モノの道具ですからね。
「つくる」と「たべる」を一つにする。
町工場が作る鉄フライパン「ジュウ」。
ぜひ一度、使ってみてください。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
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