もくじ
1.小さな町工場だからできること
2.そして野望が生まれる
3.作れども作れども完成しない日々
4.一か八かの新プロジェクト(2021年追記)
2.そして野望が生まれる
2016年の春頃のこと。
東京の中目黒で活動するクリエイティブユニットTENTが、自社の商品の製造先として、工場を探し回っていました。
その中で出会い、実際に試作を依頼することになったのが、後にフライパン「ジュウ」を共同開発することになる、藤田金属株式会社でした。
藤田 ウチの工場は様々な企業からの製造委託を請け負う一方で、自社製品として「フライパン物語」という商品を作っていまして。
鉄フライパンと持ち手の組み合わせを自由に選べる商品で、「日本製」「職人の手作り」「鉄製で長く使えるフライパン」などの特徴が大好評で。
ありがたいことに百貨店やカタログギフト、テレビショッピングなどで引き合いが絶えない状態でした。
藤田 ただ、そこからさらにもう一歩踏み出せないかという漠然とした悩みを抱えてまして。 そんなタイミングで、もともと知り合いだった竹内香予子さん(DRAW A LINE のメーカーである平安伸銅工業社長)と久しぶりに会う機会があって。
僕が「最近TENTさんの製品を試作してますよ」って世間話ししたところ、竹内社長から「藤田金属さんの商品も、TENTさんに絶対に相談すべき!」とゴリ推しされまして、相談することになりました。
青木 最初の打ち合わせでは、アルミの急須や鍋なども話題に出てましたけど、話していく中で全員が「やっぱりやるなら鉄フライパンだよな」という方向にまとまっていった感じでしたね。
治田 鉄フライパンで何か新しいことをやる。それ自体は何かワクワクしてはいたんですけど、よく考えるとそれって難しそうだなあと最初は思いましたよ。
青木 はるか昔から存在する道具だから、大きく形状を変える必然性が無い気がして。じゃあ表面処理とか色だけを変えるのかっていうのも違う気がして。
ただ闇雲に形を考えても答えが見つからないので、まずは目指すべきゴールは何だろう?というところに頭を使っていきました。
ーそんな漠然とした状態の中、ふと世の中のフライパンを見渡している時に、TENTの青木はあることに気づいたと言います。
青木 これまでのフライパンって「料理人のための最高仕様!」だったり「主婦の味方!」みたいなものが多い。 お母さんが、あるいはシェフが誰かのために作ってあげることが前提になっていないか?と。
「調理する人」と「食べる人」が、 あるいは 「調理する場所」と「食べる場所」が分離している事を前提にしてるものばかりだってことに気づいたんです。
青木 今の世の中、というか今の僕自身の事ですが、昔よりも「自分で作るのって格好良い」と感じてて。
たとえば、ちょっとした家具は自分で作りたいし、子供のオモチャもできれば自分で作りたいし。調理器具で言うと、毎朝自分でコーヒーも豆をガリガリやって淹れてるし、料理もするし。
治田 時代背景もありますね。レシピなどのノウハウがWeb上で共有されたり、物流の充実や3Dプリンターの普及などの流れから、DIYブーム、MAKER'Sブームなんていうものもあって、さらに成果物をSNSで気軽に見せられるし。
青木 もちろん格好良いだけではなくて、自分が作って自分が食べるだけの状態って、実は誰の身にも日常的によくある事で。
たとえば僕なんかは、奥さんと子供が帰省してて1人暮らしの時なんかは、焼きそばやチャーハンを作る。でも皿に盛りつけずにフライパンから直接食べるみたいなことをしちゃうことがあるんです。
治田 僕も1人暮らしの学生時代ってそういうことありました。ラーメンを作って、鍋から直接食べたりとか。ちょっと切ない気持ちにはなるけど、洗い物が少なくて済むから便利ではあったりして。
青木 そうそう、効率を重視するあまり、決して人様には見せられないという食事、ありますよね。
でも、自分が自分のために、効率良く調理して食べる。それって本当はすごく格好良いことなのに。もったいないなあと思ったんです。
青木 だから、自分で作って自分で食べる、その一連の行為を効率良くする。しかも格好良くする。そんな存在感のものが作れたら最高だなということに思い至りまして、そこを起点にアイデアを練ることになりました。
ーこうして、TENTと藤田金属という少人数によるフワフワした取り組みに明確な野望が打ち立てられました。
次回は、そんなフライパン「ジュウ」が量産に至るまでの試作の日々など、様々な紆余曲折についてお話ししていきます。